歯や顎にかかる力を確認し、負担を減らすために
朝起きたときに顎が重い。家族から「夜、歯ぎしりの音がしていた」と言われた。デスクワーク中、気づくと奥歯をかみしめている——飯田橋エトワール歯科医院では、このようなご相談を受け付けています。
歯ぎしり・食いしばりは、多くの場合、単独の病気というよりも、睡眠中または起きている間に生じる顎の筋肉の活動と考えられています。
しかし、その力が強い場合や特定の歯へ集中している場合には、歯の摩耗、詰め物・被せ物の破損、顎周囲の疲労や痛みなどにつながることがあります。
当院では、歯ぎしりの有無だけを判断するのではなく、現在どのような負担や変化が生じているかを確認し、必要に応じた対策をご提案します。
歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)とは
ブラキシズムとは、上下の歯をこすり合わせる、かみしめる、顎に力を入れるなどの顎・咀嚼筋の活動です。
睡眠中に生じる「睡眠時ブラキシズム」と、起きている間に生じる「覚醒時ブラキシズム」は、分けて考える必要があります。
2025年の国際コンセンサスでは、ブラキシズムは一律に治療対象となる病気ではなく、人によって歯や顎へのリスク要因になる場合、特に問題を起こさない場合などがある運動行動と整理されています。
日本歯科医師会では、顎の動きから次のようにも分類しています。
グラインディング
上下の歯を横にこすり合わせる
クレンチング
一定の位置で歯を強くかみしめる
タッピング
上下の歯を小刻みに打ち合わせる
実際には複数の活動が重なっていることもあります。
音が出ない食いしばりや、上下の歯が触れていなくても顎へ力を入れ続ける活動もあります。
このようなサインはありませんか
次の所見や症状は、歯ぎしり・食いしばりを評価する手がかりになります。
睡眠中・起床時のサイン
家族から睡眠中の歯ぎしり音を指摘された
朝起きたときに顎がだるい、こわばる、痛む
お口の中や歯のサイン
日中、気づくと上下の歯を接触させている
頬の内側に白い線がある、舌の縁に歯型がついている
奥歯のかむ面が平らになっている
前歯の先端や奥歯が欠けている
詰め物・被せ物の脱離や破損を繰り返している
ナイトガードが短期間で大きく摩耗・破損する
顎のサイン
口が開きにくい、顎を動かすと痛む
ただし、これらの所見だけでブラキシズムがあると確定するわけではありません。
歯の摩耗は、過去の歯ぎしり、酸による歯の溶解、食習慣などでも生じます。頬や舌の痕も、飲み込みなど通常の口腔運動によって生じることがあります。
知覚過敏や顎の痛みについても、むし歯、歯周病、歯のひび、顎関節症などとの鑑別が必要です。
歯や顎に起こり得ること
ブラキシズムがあっても、すべての方に症状が出るわけではありません。
一方、力の強さ、頻度、歯の状態などによっては、次のような問題に関係することがあります。
歯の摩耗・欠け
歯のかむ面や先端がすり減ったり、エナメル質が欠けたりすることがあります。
歯のひび・破折
大きな修復物が入った歯や神経を失った歯などでは、複数の要因が重なることで、ひびや破折が生じる場合があります。
知覚過敏
歯の摩耗や欠けなどにより、冷たいものがしみる場合があります。ただし、むし歯や歯ぐきの退縮などでも起こります。
詰め物・被せ物のトラブル
脱離や破損を繰り返す場合、材料や接着状態、かみ合わせとともに、顎の筋活動による負担も検討します。
顎関節・咀嚼筋の症状
顎の筋肉の疲労や痛み、顎関節周囲の症状とブラキシズムが併存することがあります。ただし、ブラキシズムだけが顎関節症の原因とは限りません。
原因は、かみ合わせだけではありません
歯ぎしり・食いしばりは、単一の原因で生じるものではありません。
睡眠時ブラキシズムには、睡眠中に脳や身体が一時的に活動性を高める反応など、中枢神経や睡眠に関連する仕組みが関係すると考えられています。
覚醒時ブラキシズムには、集中、緊張、ストレス、不安、姿勢、習慣などが関係する場合があります。
また、飲酒、喫煙、カフェインの多量摂取、一部の薬剤などとの関連も報告されていますが、これらが直接の原因であると確定しているわけではありません。
服用薬との関係が疑われる場合でも、自己判断で中止しないでください。必要に応じて処方した医師への相談をご案内します。
いびき、睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気、起床時の頭痛などがある場合は、睡眠時無呼吸症候群などの確認が必要になることがあります。症状に応じて睡眠外来、耳鼻咽喉科などへの受診をご案内します。
当院での診査
当院では、問診と口腔内診査を組み合わせて、ブラキシズムの可能性と、歯や顎に生じている影響を評価します。
問診
起床時の症状、ご家族からの指摘、日中の歯の接触、生活習慣、睡眠、服用薬などを伺います。
歯・口腔内の診査
歯の摩耗や欠け、歯のひび、頬粘膜・舌の所見、詰め物・被せ物の状態を確認します。
顎関節・筋肉の診査
口の開閉、顎の動き、関節音、咬筋や側頭筋の圧痛などを確認します。
記録
必要に応じて口腔内写真、スキャン、模型などで現在の状態を記録し、経時的な変化を確認します。
問診や通常の口腔内診査だけで、睡眠時ブラキシズムの活動量を正確に測定することはできません。
より詳しい評価には筋電図や睡眠検査などが必要になる場合があります。
当院で行う主な対応
日中の歯の接触を減らす習慣づけ
リラックスしているときは、通常、上下の歯の間にはわずかな隙間があります。
パソコンやスマートフォンの使用中などに歯が触れていることに気づいたら、唇は軽く閉じたまま上下の歯を離し、肩と顎の力を抜きます。付箋やスマートフォンの通知を利用して、定期的に確認する方法もあります。
これは主に日中の食いしばりへの対応であり、睡眠中の歯ぎしりを止める方法ではありません。効果には個人差があります。
ナイトガード
必要と判断した場合は、就寝時に装着するナイトガードをご提案します。お口の型取りまたはスキャンを行い、歯列に合わせて作製します。
ナイトガードは、睡眠中の歯ぎしりそのものを必ず減らしたり、止めたりする装置ではありません。上下の歯の直接的な接触を減らし、歯や修復物の摩耗・破損を抑えることを目的として使用します。ただし、その予防効果には個人差があります。
多くの場合は保険診療で作製できますが、診断や装置の種類によって異なります。通常は診査・型取り、装着、使用後の確認や調整が必要です。
装着当初は、違和感、唾液の増加、口の乾燥、顎や歯の一時的な痛みなどが生じることがあります。適合しない装置や破損した装置を使い続けると、かみ合わせや症状へ影響する可能性があるため、定期的な確認が必要です。
ボツリヌス療法
診査の結果、咬筋の過剰な活動による負担が強いと考えられる場合は、自由診療のボツリヌス療法を選択肢としてご説明することがあります。
ボツリヌス療法は咬筋の収縮力を一時的に弱める治療であり、歯ぎしりの原因を取り除いたり、活動そのものを必ず止めたりする治療ではありません。国内で承認された適応とは異なる使用になる場合があるため、製剤の承認状況、費用、効果、リスクをご説明し、ご希望を確認してから検討します。
ナイトガードでできること・できないこと
ナイトガードについては、次のように理解することが大切です。
期待されること
上下の歯が直接こすれ合うことを減らす
歯や詰め物・被せ物の摩耗・破損を抑える
顎関節や筋肉の症状がある場合、その負担の軽減に役立つ可能性がある
装置の摩耗状態から、力のかかり方を確認する材料になる
できないこと
歯ぎしり・食いしばりを必ず止める
すべての歯の破折や修復物の破損を防ぐ
睡眠やストレスなど、背景にある要因を治療する
一度作れば調整なしで使い続けられる
装置の素材や形だけで効果を一律に判断することはできません。歯列全体を覆う装置をお口に合わせて作製し、装着後も適合、摩耗、破損、かみ合わせを確認することが重要です。
よくあるご質問
- 音がしないので、歯ぎしりはしていないと思います。
- 食いしばりや、顎に力を入れ続ける活動は、ほとんど音が出ません。音の有無だけでなく、日中の歯の接触、起床時の症状、歯や筋肉の状態をあわせて評価します。
- 市販のマウスピースでもよいですか。
- 市販品は歯列への適合、厚み、かみ合わせを個別に調整できません。違和感や痛みが出る場合や、適合状態によっては歯やかみ合わせへ影響する可能性があります。使用前に歯科医師へご相談ください。
- ブラキシズムは病気ではないなら、放置してよいですか。
- ブラキシズム自体は運動行動と考えられていますが、歯の摩耗、破折、筋肉の痛み、修復物のトラブルなどに関係する場合があります。症状や変化がある場合は評価をおすすめします。
- かみ合わせを削れば治りますか。
- かみ合わせの調整だけでブラキシズムが治るとは限りません。歯を削る処置は元に戻せないため、歯の明らかな干渉など治療上の必要性が確認できる場合を除き、歯ぎしりを止める目的だけで安易に行うものではありません。
ご相談ください
歯ぎしり・食いしばりへの対応では、行動そのものを完全に止めることよりも、現在の活動と歯や顎への影響を評価し、必要に応じて負担を減らすことが重要です。
朝の顎のだるさ、歯のすり減り、詰め物・被せ物の破損などが気になる方はご相談ください。






